Piano Sonate Nr.26 Op81-a Es-durの分析〜展開部〜

展開部は、提示部までに現れた素材のみで構成されている。ベートーヴェンの高い技術が存分に、しかも簡潔に発揮されている。まずは分析図を見てみよう。

展開部分析図

展開部は91小節を境に2つの景色にまとめられている。
呈示部冒頭と同じ構造で始まるこの2つの部分は、それぞれ素材の使い方に以下の3点に置いて差異がある。

 ・a,b素材(cf:序奏分析
 ・転調を繰り返す→主にc-moll内での進行
 ・素材bのリフレイン→素材bの解体

展開部

前半はaの素材とbの素材が並列的に並べられている。また素材bにおいて、3つめの音が和音に収斂される(図中b↗︎)ことにも注目したい。
和声的にはc-moll→b-mollの属9→g-mollの属7→e-moll、と属和音、Ⅵの和音を軸に変化する。

後半は上声に素材aが繰り返される。これは3小節一括りとなっていて、間にドミナントを挟んだ構造体が水平に連結されている。トニックとの往復を経て、Ⅵの和音に収斂されていき、再現部冒頭和音で燻る景色になる。その間素材bは低音で繰り返される。

素材の解体による表現

後半で以下2点に特に着目すべきだ。

 ・半音階的素材のエピソード的挿入
 ・bの解体

まず104小節からⅥ→属9→Ⅵにおいての半音階進行が特徴的だ。これは推移部Ⅱ(cf:呈示部分析)の半音階進行に由来している。この進行がエピソード的に挿入されることで、我々に再現部の訪れを想起させることに成功している。
同じく104小節から、素材bが解体される。これまで収斂してきた右手の和音が2音に減らされるのと同時に、左手の素材bの3つ目の音は行き場がなくなる。
言い換えれば第3番目の音が「不在」となった左手の2音が、燻るように繰り返される。私にはこの素材bの解体に、寂寥感がよく表現されているように思われる。(音の不在による寂寥の表現は、第2楽章のコンテクストにも現れる。)前述のように和声がエピソード的微動を経て動かなくなることもエネルギーの抑圧に貢献している。

これらの巧みな手法の有機的結合が、相対的に短いにも関わらず、展開部が緊張感とドラマ性を合わせ持つことを可能にしている。

次は再現部+コーダです。
こぼれですが、bの収斂のあたりで根拠をもっと欲しかったので自筆スケッチを探しました。日本では静岡文化芸術大学がファクシミリを持っているらしいです。あるいはボンのバートーヴェンハウスのデジタルアーカイブにも、現存するスケッチが公開されています。
ただ、いずれ触れますがベートーヴェンのスケッチは悪筆で、解読自体かなり根性のいることなので今回は触れません。
Op81-aのスケッチも結構凄かった…。

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