Piano Sonate Nr.26 Op81-a Es-durの分析〜主題呈示部〜
主題提示部は、序奏で産み出された素材をリズム、音形、サイズなどの側面から変容させ、そこから組織を組み上げて成立している。
また、拍と借用和音の配置が曲の陰影をつけることに大いに寄与している。
まずは第一主題譜例を見てみよう。
第一主題
特筆すべきなのが提示部の冒頭に加えられた4小節の導入部分である。これをして主題提示部が楽曲全体に対し、(構造的には)相似していると見ることができる。
序奏+(呈示部+展開部+再現部+コーダ)
∽
呈示部導入部分+(第一主題+推移部+第二主題+終結部)
この相似構造に加えて、序奏と呈示部のコントラストがはっきりしていることが非常に効果的だ。
序奏がpでゆったりしたテンポで変容していくのにに対し、呈示部の導入部分はfかつ性急に和声が切り替わり、平行調のⅥの和音から始まる。ここではさらに、bの素材(素材定義については、前回記事をご参照ください。)が激しくリフレインされ、情動に直截的に強く働きかけている。
以上の仕組みが景色をがらりと変え、劇的な効果を持たせることに成功している。
続いてg-b-bの3音が現れる。これはb素材のバリエーションであり、そのままLe-be-wohlの音節に紐づけられる。四分休符によって挟まれているこのリズム要素は、序奏の最終小節のリズム要素をネガと考えればポジに当たる形になっている。
上昇はa’に由来する下降音形(a’)で閉じられる。25小節からは、確保(sich)が4小節置かれている。
和声の面で特徴的な『変容』を一つ挙げるならば、24小節と28小節を比較すると面白い。前者は3拍目以降同主短調からの借用で陽→陰と和声が動き、28小節では倚音を含む属和音からドッペルドミナントへ動いている。この和声の変容をどのように表現するか、プレイヤーの力量と感性が問われる。
推移部
29小節からを推移部Ⅰ(ÜbergangⅠ)とした。ここは順次進行のa及びa’を反行させることのみで作成されている。この景色は、或いは、繰り返される人間の出会いと別れを描写した楽想かもしれない。和声的にはc-mollを経てB-durのドミナントに向かう。最後は第一主題で触れた「ポジのリズム要素」を経て、推移部Ⅱに突入する。
35小節から推移部Ⅱ(ÜbergangⅡ)とした。素材a’、bの亜型(bの前半2音を反復して拡大。半音階の刺繍を内含する。)を用いた楽想は同主短調のⅣ度からドッペルドミナントに変容して確保される。
このbの亜型は、半音階進行として展開部に出現するので、楽曲に陰影をつけるための素材の一つとして考えられる。
素材bを並べて作る明暗のコントラストというアイディアは、46小節までB-durに解決できない不安定な響きを持続させている。(またbの亜型素材の中に含まれる半音階の刺繍を増幅拡大させたものと見ることもできる。)
やがてa’の素材がドミナントトニックを繰り返し調性を安定させ推移の役割を終える。
第二主題
第二主題はオーソドックスに属調で始まり、Le-be-wohlの素材aがそのまま素直に現れる。
この曲全般に『3つの音』がリズム的にも音楽的にも重要で、第二主題の後半の6音は、aの拡大と見ることもできるし、aを二つ並べて融合させたと見ることもできる。実際に6音にLe-be-wohl,le-be-wohlという音節を当てはめて歌うことも可能だ。
このEspressivoは音域を変えて確保される。(美しく弾くにはいささか技術を要する。)
終結部
終結部ではb-mollのⅥの和音が現れるが、これは全曲通じてキーとなる部分に使われる同種短調のⅥの借用である。ここを通じて音域をオクターヴ戻し、62小節以降の素材aのリフレインに繋がる。
後期ピアノソナタで好んで用いられる偽フーガ的書法が使われたこの短い楽想においては、和声感がはっきりしないコンテクストと下降していく音形の組み合わせが選ばれ、あたかも去りゆく馬車の後ろ姿を描写しているかのようだ。
提示部は序奏冒頭を思わせるaの素材の掛け合いで閉じられる。
次は展開部か。いつできるかな…?ガンバリマス。
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※2019年6月26日、文章修正
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