Piano Sonate Nr.26 Op.81-a Es-dur の分析〜序奏〜
人物史や様式研究については別の機会に触れるとして、今回から連続して愚直に楽譜に向かってピアノソナタを読み解くということをしたいと思います。
「序奏」は全16小節。ホルン5度を使った短い素材から始まる。
この最初の3音に由来する素材のみを組み上げて、第一楽章は完成している。
楽章全体の構造の大本となるこの素材を仮に素材aとしよう。
素材aは以下のような特徴がある。
1. Le-be-wohl(さようなら)の音節が当てられた3音で構成されている。
(均一ではなく第3音の音価が1.5倍になっている。)
2. 順次下降
(特徴的なホルン5度を含む和音で彩られている。)
3. Ⅵ(Ⅲ)の和音を軸とした転調。
以上の特徴は、この素材を『変容させる』ことで第一楽章全体を有機的構造体にすることを可能にさせている。
「序奏」は、素材aをリズム的・サイズ的・音列的に変容させることで亜型素材をいくつか産み出すためのセクションであり、それらのみで曲全体を構成するということを明確に主張あるいは定義している。
(言い方を多少情緒的にすれば、Lebewohlという楽想に込められた想念のみを散りばめることで第一楽章は描かれていると言える。)
序奏に見られる変容
上の図は序奏部分の分析図なので、楽譜と重ねて見ていただきたい。
はじめに出てくるbの素材はa(Lebewhol)のリズムバリエーションと見られる。和音を変化させつつ上行するエモーショナルな構造体になっている。またこのb素材は第一主題の冒頭にもリズムを変容させて現れる。bは第4小節でリズムを下降に転じ(b’)、締めくくられている。b-b’の組み合わせは1度リフレインするが、そこでも同じように確保されず、音列を拡大させて下降していく。同時に対旋律としてa’(aの反行形)が現れる。
この6小節までの流れを確保するのが7小節以降なのだが、ここでも変容は曲のダイナミズムを拡大させていく。
Le-be-wohlの最終音節で、冒頭の和音はⅥの和音へ(平行調の主和音)移るが、2回目は同主短調のⅥの和音へと移ることで、効果的に世界を広げている。その後のbが構成する部分も和音の変化に止まらず、転調を繰り返すことで強い表現を重ねていく。
11小節目後半以降は細かい和音の変化ではなく、リズム・拍に対する処理の変化に主眼が置かれる。このことによって、音の景色ががらりと変わる。(実際に言葉としてのLebewholが放たれあと、寂寥が表現されているように聞こえる。)
ここから、いくつかの既出素材の変容が連続して現れる。
第1群:5〜6小節のダイナミクスを縮小した3音
第2群:6小節2拍目の三連符で初出したリズムによる3音+1
第3群:第2群をオクターブ移高
(4小節目で確保としてのオクターブ移高あり)
第4群:第1群のダイナミクスと第2軍のリズムの融合
第5軍:第4郡の同主長調による確保
第4群のダイナミクスの変化(14小節)は、拍感を侵食し、16小節に於いては強拍を避けることによって、完全に拍から乖離した景色となる。
序奏最後の、ぼんやりと夢の中にいるような浮遊感は、変容の連続のあとに拍感を破壊することで実現している。
そのAsの音の3つめからがらりと雰囲気を変えた第一主題が始まる。(あたかも、感傷が『別れ』という現実の前では何の役にも立たないということを表現しているかのようである。)
次回はいよいよ主題提示部の分析です。
※2019年6月26日、文章を修正。
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